2016年6月3日金曜日

乳がん患者向けのハーフトップ、HugFit(ハグフィット)を東レが発売! ~患者に成果を届ける医師の意志から生まれた産学連携プロジェクト~

乳がん患者向けハーフトップ「HugFit」発売開始!


 本日付けで、乳がん患者向けのハーフトップ

「HugFit」(ハグフィット)発売についてのプレスリリースが公開された。

その商品のがこちら(3色から選べるようだ。)↓↓




                            (Photo by がん研有明病院)
 


 この商品は、東レ株式会社と、公益財団法人がん研究会との共同研究開発によって

生み出されたもので、同社ホームページ、及びがん研有明病院ホームページより、

そのプレスリリースが公開されている。

<参考>
   ■東レプレスリリース:http://cs2.toray.co.jp/news/toray/newsrrs01.nsf/0/9F8A2DCD19B35AD949257FC5001E5468

   ■がん研有明病院プレスリリース:
   →http://www.jfcr.or.jp/hospital/information/general/4419.html


HugFitの製品情報


さっそく、新製品の気になる情報を簡単にまとめてみた。

・価格   :5,500円(税別)
カラー展開:ピンク・グレージュ・ブラックの3色
・販売方法 :がん研有明病院、東レグループ通販サイトなど
・特徴   :
 ー医療機器ではない!
 ー肌刺激を極力抑えた縫製仕様
 ーデザインや配色にもこだわったファッション性

販売計画 :2016年度に1万着、3年後の2019年度には10万着



HugFit を着用したときの様子
(Photo by がん研有明病院)


HugFit の開発経緯


今日はこのハグフィットの開発プロジェクトをマネジメントしていた方から

お話を聞く機会があってハグフィットの開発経緯や成功秘話などを

伺っていたのだが、それがものすごく感動的だったので共有したい。


  開発のきっかけ


 実は、この製品はとあるがん研有明病院の放射線治療医の

ふとした一言がきっかけで開発されることとなったという。


「健康な人にはいろいろなウェアが開発されているのに、

 病気と闘う患者のための衣料はほとんどない。これをなんとかしたい。」


なんのことか?と思われるか方が大半であろう。

この言葉の真意には次のようなバックグラウンドがある。


  乳がん患者の苦悩、現場に隠れるニッチなニーズ


 乳がん患者に対して、その再発予防のために

放射線照射治療が行われることが多々ある。

この放射線治療には5%の10年生存率改善効果が認められている。


(つまり、治療を受けたときと受けないときとで、10年後に生きている患者は

 例えば100人中90人か95人かという違いがある。)


たった5%といえど、100人いたら10年後に助かる人が、

放射線を照射するか否かで5人も変わってくるというのは非常に意味のあることである。



しかし、この放射線照射には大きな欠点がある。

それが、照射後の皮膚炎だ。

実は、放射線照射治療後、患者は重い皮膚炎を患うがために、

軟膏をたくさん塗っては包帯で自作の衣服を拵えるといったような

状況にあったそうだ。


放射線治療医にとってこれがとても見るに絶えず、なんとかしたいということであった。


乳がん患者ウェア開発プロジェクト始動!


 放射線治療医の一言から、がん研有明病院の産学連携担当者は、

こういった小さな、それだけれども極めて重要なニーズに気づかされ、

このプロジェクトを始動させたのだ。


個人的に、こんなニッチなニーズに気づけるってのは、

本当に現場にいないとできないことだと思う。

医療に関していえば特にこの法則は当てはまるであろう。

教訓として、「現場にこそニーズが眠っている」ことを胸に刻みたい。



成功秘話:プロジェクトマネジメントの話


さて、そうかと言ってこうしたニーズが存在することを

企業の方に話しても通常は、なかなか話に乗ってくれないし、

話を聞いてくれたとしても具体的に事業の実現にまでは結びつかない。


一方、HugFitの場合はたったの3年で製品化にまで

こぎつけるという驚異的なスピードをもって製品開発が進められた。

その成功の秘訣はいったい何だったのであろうか。。


企業の関心を引き出し、持続させ、事業可能性のイメージを持たせる


産学連携において、まず重要なのはその企業選定であるが、

企業からの関心を引き出すために、まずがん研有明病院は、

当事者(放射線治療医)から直接開発の必要性を説明してもらう戦略をとったそうだ。

 表題にもある通り、実はこのプロジェクトでは、医師がとてつもない

強い意志をもって「患者のために成果を届ける」ことを意識していたという。

どうやら成功の鍵の一つはここにありそうだ。




そのほか、有明病院は企業の関心を持続させるために

SWOT分析や想定市場規模のフェルミ推定、BCGのPPM分析等に取り組み、
(今回はこれらの手法については割愛)

事業的な視点の分析を行った状態でそれが実現可能で採算もとれるということを

ある程度示した上で企業に情報提供を行っていた。

これによって企業側に、事業性があってかつ実現可能なのだということを示したことが

もう一つのキーサクセスファクターだったに違いない。


プロジェクトマネジメント上、成功要因となったもの


さて、本日お話いただいた開発者の方曰く、

開発段階でのプロジェクトマネジメントの際にポイントとなった点として

以下の3点があげられるという。


1.医師が本気だったこと
2.女性がスタッフとして入ってくれたこと
3.共通目標(マインドセット)が明確であったこと

これらを順にみていこう。
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1.は先にみてきた通りである。

2.について
 製品プロトタイピングを繰り返す段階にあった際、

 開発会議には必ず女性に参加してもらっていたそうだ。

 乳がん患者用のハーフトップということで、

 細かい首まわりの着用具合がどうとか、

 デザインにおいて白だと下着に見えちゃうとか、

 そういった女性にしかもらえない意見を数多くいただけたという。

 当然といえば当然のことであるが、

 ユーザー目線にたった視点の重要性を再認識させられる。

3.について
 東レ側も、がん研有明病院側も、あらかじめ

 目標とゴールは共有しておき、「早く患者に届ける」ということを

 設定しておいたのだそうだ。

 これはまず、プロジェクトマネジメント上

 意思決定に行き詰まったときや、自分たちが今何しているのかわからなくなったときに

 帰ってくることのできる原点があるという意味でとても大事である。

 その他、このHugFitの開発に限って言えば、

 あえて医療機器として開発しなかったこともこの原点に基づくと言う点が

 とても特徴的である。
 

 「早く」という点を達成しようと思うと、どうしても医療機器開発では

 時間がかかってしまう。というのも、医療機器開発のためには

 承認申請をするために多くの項目において試験したり、書類を作成する

 必要があるからだ。

 
 思い切って医療機器として開発しないこと、

 すなわち、やめることも戦略の一つだということが教訓として得られる。



産学連携研究開発に携わるに当たって...


 小生も現在、健康長寿社会を実現するための研究開発を

大学院の副専攻プログラムとして開始させつつあつのだが、

そこで求められているのは、本日とりあげたような、

医療現場においてでしか見ることのできないニーズ、そして

それに対して社会性、及び事業性の兼ね備えたプランなのではないかと考える。




今後の研究テーマの策定にあたり、

本日のHugFitのお話は小生にとって、とてもためになったのであった。