目次数十年ぶりのアルツハイマー薬
今朝方、このニュースを聞いて震えました。
賛否巻き起こるでしょうが、ついに条件付きではありますが、
米国バイオジェンとエーザイから申請された、アデュカヌマブのFDA承認がおりました。
https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/us-fda-set-rule-controversial-biogen-alzheimers-drug-2021-06-07/
数十年来のアルツハイマー薬。
一つ、歴史を塗り替えるという意味で、本出来事は大変に大きな意義を持つと思います。
また、一部の患者さん・そのご家族もきっと待ちに待った新規医薬品であることは間違いない。暗い世の中に一つ希望の光を持ち込むようなニュースだ。。
医薬品だとかヘルスケアの界隈にいると、このような歴史的瞬間に出会えることが数年に一回くらいあるけれど、その度に、僕はこの分野に来てよかったと思う。
すごいな医薬品は。と感動する。
さて一方、年間600万円という超高額医薬(しかもアルツハイマーなので慢性的に投与続けないといけない)ということで、また薬価の議論もまき起こりそうです。
日本だけでも600万人もの認知症患者さんがいると言われているので、この人たちがこれをみんな使い出したら...なんて考えるとえらいことです。
また、注意しないといけないのは、これもまた決して「治療薬」とはいうものの完全に治すことのできる薬ではなく、あくまでも「進行を遅らせる」ものに過ぎないということ。
バイオジェン・ジャパン初のインターン
ところで、もう時効?だと思うので、暴露です。
(インターンに行っていた事実は暴露して問題ないのですが、内容はあまり明かせられない)
(インターンに行っていた事実は暴露して問題ないのですが、内容はあまり明かせられない)
2019年に僕は、リーディング大学院関連のプロジェクトで2ヶ月ほど企業インターンに行くことになって、バイオジェン・ジャパン初の学生インターン生として、この薬の承認申請にも末端で関わったことがあります。
ちょうど、ENGAGE/EMERGE試験のP3を中止しながら承認申請出すとか出さないとかしてた頃です。
https://www.eisai.co.jp/news/2019/news201917.html
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17164/
本当に末端業務で、患者さんの治験リクルート計画作成を学んだりした医薬品なので思い入れもあります。グローバルの会社の方々とも相当本腰入れて、1週間近くにわたって議論を続けていたような記憶など、など、一気にあの日々が思い出されました。。。
またアデュカヌマブについてこの機会にアップデートしてみようと思います。
【追記】
*以下、「投与基準」について、どうお考えですか?という意見をいただいたので、参考までに当時お話に登っていた議論を記憶から手繰り寄せてつらつら書いてみます.
年間600万円ほどの薬価と言われている中、慢性疾患のAD患者にどう差別化して投与されるのかが気になります。臨床試験の組み入れ基準をみると、ごく一般的なAD患者を組み入れている印象ですが、PET検査でアミロイド陽性患者を対象としています。
重症患者を選択しようにも、早期に使用されないと有効性は低下しそうですし、
使用基準、難しいなと感じています。
* 2,3年前のインターン時の記憶を遡りながらなので間違っていることも多いかもしれません.
* 守秘義務を追ってますが, 以下は記憶からの引用なので、opinions are my own. というか、当該会社の意見ではないともここで断りを入れておきます.
薬価・患者さんの人数・疾患が慢性であること・医薬品の性質等々を考えると、投与基準は本当に難しいし、当時の社内/外でもいろんな意見が巻き起こっていました。
何しろPETだけで50万くらいかかります確か…….
使用基準についてはこの先10年とかそう言ったスパンで検討・議論されていくのではないでしょうか。
(その辺の提言を上手いける専門家集団を作りたいとも考えている。しっかり調査・議論してまとめて見るみたいなのはとても有意義だし、発信できる成果もあげられる。)
さてまず、製薬会社の利益としては患者さんを一人でも多くしたいって意図がゼロではない(というか結構ある)、と思うのでその辺を差し引いて考えてもらえれば。
・グローバルの人らと議論していて感じた「すげぇなこいつら」ってところは、【この医薬品の承認】を単なる承認として捉えず、「社会のnormを変えるきっかけ」にしようとしていたところです。
診断でのアミロイドPETの価値を問う際に用いられていたのは、「Shifting Left」と「Decouple」というキーワードでした。
「Shifting Left」:診断の時期を左、つまり早期にずらそうよ、というコンセプト. 早く診断できることで備えができることの意義がある.「Decouple」:診断の価値と、治療の価値はそもそも別で、診断することそのものに価値があると見出すべきだ.
僕自身は正直以下どちらも難しいな/よくその価値がわからない(わからないというのは、否定的な意味じゃなくて、neutralな立場からしてわからない)という印象で、「早く診断できることの意義」がどのくらいあるのか?っていうのがいまいちピンと来ていません。(多分、動けなかった手足が動くようになる、みたいな簡単なアウトプットが想像できないからだと思いますが。)日本国内の社員さんたちも、ここは結構biogen グローバルのメンバーと揉めていたというか、議論していた印象です。
ただ、DMT(疾患修飾薬)の威力というか、いかにそれがQOLを上げるのかというアウトカムは、やはり他の疾患(例えば多発性硬化症なんか)を見ていてもやぱ「遅らせるだけ」かもしれないけど、めちゃくちゃそれが患者さんの支えになっているという事実もありますので、一部の患者さんからすれば、これが希望の光(本当の本当に希望で待ちに待っていたみたいな人も絶対にいる)のはずです。
あとはいくらでQoLあげますか?お金持ちしか助からない世の中でいいんです?みたいな他の薬でもあるような話が残ってきます。。
そのほか、、
・我が国におけるPET画像読影者、リガンド製造施設、そして診断の保険償還といったインフラ・システムは十分とは言えないので、その辺も考えないといけないよなぁと考えていました。PET施設はまだ多い方なので、グローバルの人は日本をいい市場だと捉えてるって言ってましたが。。
・そもそもなんでアミロイドPETで見分けたりしないといけないのかということも個人としては気になっていてBiogenさんにはインターン中に他の手段も提言しました(もちろん、知ってて検討しているとのことでしたが)。血液からアミロイドdepositionをdetectするような手法も確立され始めています(以下論文は島津から)。個人的にはこういうような技術の民主化がもう少し進んでくると、気軽な診断ってところに落ち着けるんでしょうなぁと期待しています。
Nature, A. Nakamura, N. Kaneko et. al.,
High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer’s disease. doi:10.1038/nature25456
https://www.nature.com/articles/nature25456.pdf
【追記2】210615
そのほかのニュースだとか疑問点も出てきたので、さらに追記です
●重要な疑問点;静注の点滴で、どうして一部が脳に入るのか
[その他ニュース]
●06.08. 毎日新聞記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/df83a81c9db3bca59451e205871646ae3eaf8597
日本では昨年12月、厚生労働省に薬事承認を申請した。超高齢社会を迎えて新薬への期待は膨らむとみられるが、FDAの審査でも有効性を巡って否定的な見解も出ていたとされる。また、バイオ医薬品であり、研究開発期間が長いことから高額薬となるとみられる。承認されたとしても、公的医療保険の適用対象とするかや、その場合の対象者も議論となりそうだ。
●06.08. 時事.com:
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021060800222&g=int
アルツハイマー病に詳しい東京大大学院医学系研究科の岩坪威教授(神経病理学)は「臨床試験(治験)では、投与された患者の症状の進行速度が、投与しないグループと比べて22%遅くなることが示された。早期アルツハイマー病の進行を遅らせることが期待される」と話している。
● 06.08. Nature
Landmark Alzheimer’s drug approval confounds research community
―米国食品医薬品局(FDA)が18年ぶりにアルツハイマー病の新薬を承認
―神経学者や生物統計学者からなる独立した委員会を含む多くの専門家が、FDAに対して、臨床試験データはaducanumabが認知機能の低下を遅らせることを決定的に証明するものではないと助言しました:
→ FDAは代替として活動の代替指標(Aβ)を測定して承認の頼りにしたが、これは危険な前例となると一部研究者は警告しています。
―Aducanumabは、アルツハイマー病の根本原因と考えられている脳内のアミロイドβと呼ばれるタンパク質の塊を除去します。FDAは、脳内のアミロイドβを減少させることができるという理由で、この薬を承認しました。
―しかし、一部の患者団体は、不治の病である進行性の病気の影響を和らげることができるものなら何でも欲しいと思っています。世界中で3,500万人がこのタイプの認知症を患っていると言われています。
:「新しいカテゴリーの最初の薬が承認されると、その分野が活性化され、新しい治療法への投資が増え、より大きなイノベーションが促されることは、歴史が証明しています」(Maria Carrillo, chief science officer for the patient advocacy group Alzheimer’s Association in Chicago, Illinois)
―アミロイド仮説に懐疑的なジョージ・ペリーは、「研究界を10〜20年後退させることになるでしょう」と言う。
【Problematic Data Set】
―2019年3月、研究者たちは、早期のアルツハイマー病患者を対象に実施されたこれらの試験が進行中の中間データを覗き見た。彼らは、これらが成功する可能性は低いと結論づけ、バイオジェン社は両試験を早期に中止した。
―バイオジェン社の再分析によると、最高用量のアデュカヌマブを投与された患者の一部で、認知機能の低下が統計的に有意な方法で抑制されたという。今回の試験では、低用量では同じ効果が得られず、もう一つの試験では、どの用量でも効果が得られませんでした。
―また、今回のデータでは、アデュカヌマブにも無視できない副作用があることが示されました。2つの第3相試験では、治療を受けた患者の約40%に脳の腫れが見られました。これらの患者さんのほとんどは、腫れに関連した症状に悩まされることはありませんが、危険な合併症を避けるために定期的な脳内スキャンが必要であり、患者さん、神経科医、医療システムにとって負担となっています。
―11月の会議では、最終的に11人のパネリストのうち10人が、提示されたデータはアデュカヌマブの有効性を示す証拠とは見なされないと投票し、残りの1人は棄権しました。今週、FDAは反対の結論を出しました。
―バイオジェン社は、Post-approval trial試験を完了するために最大9年間の猶予を与えられています。
―これは、製薬会社が、極めて質の低いエビデンスや事後的なデータ収集に基づいて医薬品を市場に投入する手段として、迅速承認プログラムを利用しようとする道を開くものです(Kesselheim)
―規制当局は用途を限定せず、すべてのアルツハイマー病患者に投与することができるとしている。バイオジェン社によれば、一人当たり年間約56,000米ドルの薬剤費を請求するとのことです。米国の600万人のアルツハイマー病患者の5%がこの治療を受ければ、この薬の収益は年間170億ドル近くに達する。これにより、現在の収益では、2番目に売れている薬剤となります。
―非営利団体であるInstitute for Clinical and Economic Reviewは、費用対効果の高い価格を年間2,560〜8,300ドルと見積もっています。
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参考文献
1.
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次のURLを参考にさせていただきました。
・https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/us-fda-set-rule-controversial-biogen-alzheimers-drug-2021-06-07/
参考文献
1.
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参考URL
<本ニュースについて>次のURLを参考にさせていただきました。
・https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/us-fda-set-rule-controversial-biogen-alzheimers-drug-2021-06-07/
・という本記事を書いていたらあっという間に国内でもニュースが...
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=71253
https://www.asahi.com/articles/ASP680NV8P64ULZU007.html
https://news.yahoo.co.jp/articles/df83a81c9db3bca59451e205871646ae3eaf8597
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021060800030&g=int
・アミロイド PET イメージング剤の適正使用ガイドライン(日本核医学会)
http://jsnm.org/wp_jsnm/wp-content/themes/theme_jsnm/doc/amyloid_pet_imaging_gl_2.pdf
・aducanumabについてのエビデンスレポート
https://icer.org/wp-content/uploads/2020/10/ICER_ALZ_Draft_Evidence_Report_050521.pdf
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