mRNAワクチンの今後の展望
今朝電車で以下のニュースを見かけて、そろそろ「mRNAワクチンの今後」について書き留めておこうと思いました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA201WJ0Q1A820C2000000/
正直、ブースター接種(3回目)が効果があるのか?とか、annualな接種でいいのか?とかその辺の臨床的知見までは追いきれていないですので(僕の追うべきは基礎側)一応それはお伝えしておきます。
結論ファーストで、今考えている「mRNAワクチンの今後」です。
以下①ー④を中心に技術・研究側での議論は進んでいくのではないかと考えています。⑤も重要ですがやや付随的というか、継続的に議論は進むが、優先度はちょっと落ちるかな、という印象(いや繰り返しますが⑤も大事)。
①高純度
②低コスト
③キャリアフリー
④自己投与が可能
⑤その他:保存温度(安定性)、タンパクへの翻訳効率活性化
各論書いていると大変になるので、サクッとですが、概要を記しておきます
①高純度
ファイザー/Biontech製のワクチンの純度は実は60-70%程度という報告がされています。これが実は衝撃だと思って欲しくて、普通のタンパク製剤(抗体)や低分子の医薬品の純度はまず99.5%くらいあると思います。95%でぎり承認、90%切ればもう議論できないくらいの感覚。というのも例えば純度90%だったとしても、残りの10%の不純物が本当はターゲットと考えている医薬品の100倍活性があるみたいな話だったら実は主要な生理活性を持っているのは、不純物の方だよね、って考えもありうるわけで。
60-70%というのは、基礎研究の論文をpublishするのにギリギリ耐えるかどうかくらいの相当汚いレベルです(僕がreviewerなら基礎論文でも純度70%でデータ出してきたとしてもなんでこんなに汚いんだ?精製しなさいって言います。)。
巷ではなぜ話題になっていないのかよくわからないですが、多分水面下でこの辺は対策が進められているのでは?と推測しています。
②低コスト
以前から基礎の分野では、ここは議論の対象かも。(基礎科学の試薬会社から試算してmRNAワクチン3kg(1億回分)を作ろうと思ったらスケールメリット入れても5-50兆円かかるって、以前予想投稿していました。)。
実際今のところ、20億回分で:ファイザーの売り上げが3.7兆円, ビオンテックの売り上げが2兆円。思ったより安いけれど、それでも異常なまでの価格です。
(注)毎年世界でめちゃくちゃ売れるtop10の医薬品でもだいたい1000億くらいです。その10-100倍売っている。。。
多分、修飾UridineやARCAの特許、4000塩基のchemical ligationでlossするなどの原因があるのだと考えていますがその辺の奥まったところはまたいつか。
③キャリアフリー
ここはコストや副作用の話と関連。
多分筋中で痛いだけじゃなくて、脂質性ナノ粒子(LNP)による毒性・免疫性もあって、副反応による発熱や腫れがある可能性も否定できないと考えています(インフルエンザワクチンの筋中(LNPを用いていない)は多分こんなに腫れたりしないですよね、データ見てないですけど)。
LNPは粒子の大きさが不均一であったり、+チャージを帯びていて細胞毒性があるって話はずっと指摘されているのです。じゃあどうやってmRNAを送達するの?というところがこれからの研究者の腕の見せ所ですが、昨日もmRNA送達に関して個人的にはBreakthrough of the Yearクラスの面白論文が出ました。日進月歩です。
(ちなみにここが今やってる僕の研究でもあります。)
④自己投与が可能
個人的にここの注目度はtopです。毎年打たないといけないような代物なら、そのうち自己投与が可能になる(ように世の中が動いていく)のではないかと考えています。インスリンの自己注射みたいなイメージです。もちろんそのためには保存温度だの安全性だの、副作用だの免疫反応(多分これが最大の関門)だの課題は山積していることは事実です。
しかし、現状ワクチン購入のコストよりも、稼働する医療資源(特にマンパワーのことを指します)や、それにかかる人件費、などのコストがとてつもなく大きいと踏んでいます。
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