2020年1月16日木曜日

本当のサイエンスはどっちか?横展開型の研究と縦型ゼロイチの研究

研究の種類を二つに大別してみた


最近着想した、というか思い至ったというか。
世の中の研究を二種類に大別してみたら結構すんなり腹落ちしたので文字に起こしておく。

すなわち以下の二種である。
  1. 横展開型研究
  2. 縦型ゼロイチ研究





横展開型研究


他の人が切り拓いた分野(プラットフォーム)の中で新しい仕事をする研究。

他の人が切り拓いているとはいうものの、それでも横展開型研究にもクリエイティビティは残る。というのも、これは「誰かがやらなければいけないけれど、その量が莫大である」といった場合が多く、一つ一つのワークに価値がある。

つまり、「誰でも思いつくことはできるけれど、誰もやらなかった研究」として評価されるのだ。


わかりにくいと思うので例を挙げてみよう。
網羅解析しないといけない研究などが分かりやすいかもしれない。

例えばタンパク質の結晶構造解析。

今やPDBなどのデータベースも出てきて網羅されつつあるものの、やはり全ゲノムの中のタンパク質の結晶構造が取れてきたかというとそうではないし、微妙に構造の違うもの、リガンドが異なるものなど、人類が撮りあぐねているタンパク質結晶構造はたくさんある。

未だにNature姉妹紙などでもタンパク質の構造とってきた論文などが掲載されたりする。

タンパク質結晶構造解析の場合は、X線結晶構造解析技術の台頭がそのプラットフォームになったことはいうまでもない。



他にも、iPS細胞から特異的な細胞を分化させる研究なんかもそうかもしれない。肝臓をつくろうとか、腎臓をつくろうとか色々やるべきことは誰でも思いつくが、それぞれのタスクを実際の実験に落とし込むと山ほどやるべきことはあるので、山中先生の切り拓いたiPS細胞というプラットフォームに山のような研究者が集まる。

こうして一つ一つの組織・臓器を創ろうと山のように研究者が実験を行う。

最近ではCRISPERを使った病態モデルなんかもそうだなぁ。


横展開型研究の特徴


  • お作法がある。
    →こういうデータをこういう風に、この解像度でこれだけそろえて、、っていうのをちゃんとステップ通りやればNatureにだって載せられる。
    こういうのを覚えるのも4点目の特徴から、一応大事。
  • スピードが大切
    →他の人もやっているので当然競合が多い。
     誰よりも早くpublishしないと危険だ。研究が水泡に帰す可能性がある。
  • 誰かがやんないと誰もやらない。だから価値がある
  • 研究者としてSurviveする観点から、引き出しとしてこちらのアイデアを持っておくとよい
    →誰でも思いつけるアイデアだからこそ。
     最悪このアイデアで論文書いて生き残ろうって考えも出てくる。
     本当に一流になろうと思ったら、こちらに依存していてはいけない。



縦型ゼロイチ研究


全く新しい分野をゼロから切り拓いていく研究。
特定の世界におけるGame Changingな研究になることが多く、たいていの場合は横展開型研究のプラットフォームになる。


横展開型研究の項目を読んだらだいたいこちらで言いたいことがわかるはず。
ただ、ゼロイチっていってももちろん程度の大小は存在する

全部が全部iPS細胞の発見っていうわけじゃなくって、
ニッチな分野におけるイメージング手法が新しくなるとかでも、
立派なゼロイチ研究だ。


これは、既存のモノをDesignして発展させることでたどり着くこともあれば、極めて重要な現象(Preliminary Data)をDiscoveryすることでたどり着くこともある

Designと Discoveryのどちらが大事というわけではなく、このバランス感覚がすぐれた状態での研究ができるとベストな気がする。

Designがすぐれている場合、仮説はほぼ正しい。ということは、まず確実にin vitroの実験はうまくいく。そういう意味ではとても安心したチャレンジができる。Natureクラスに出せなくてもJACSとかその分野の一流誌レベルの論文には載せられるだろう。なぜなら概念自体がまったく新しいからだ。


Discoveryの場合は本当にセレンディピティとか運の領域も入ってくる。だけれども、完全にこちらに手を抜くのは禁物だ。むしろDiscoveryをやることってアカデミアにいることでしかできない。ここで積極的にチャレンジして誰も予想しなかった現象を見つけるっていう喜び、これも絶対にある。





以上、研究を二種に分けてみた。
わりと腹落ちしませんかね、これ。