2019年12月25日水曜日

191220_日本で最年少教授で、オハイオ州の有名小児病院の先生に、海外ポスドクの話を聞いてきた

海外ポスドクについて②


前回に引き続いて、今回も海外ポスドクについて話を聞いてきた。

学部生の時につながりを持てた超有名若手研究者。
オルガノイド研究におけるトップランナーとしてご活躍されている。

どうしたら30前半で教授になれたのか、どうしたら20代前半で世界最高峰の国際論文Natureに論文を出せたのか、、。成果から見ると本当に怪物のような方だけれども、ああいう方をみていると本当に負けてられないと思う。

どんなトレーニングを積んだらあんな人になれるんだろう。
アイデアの発想についてとか、ポスドク選択をする際にどういう基準で何をみたらいいのだろうかとか、色々聞いてみた。



なお、僕は基本的にポスドクするとしたら海外(基本的にアメリカ)しか選択肢にない。
というのも、給料、競争環境、ノイズ(日本にいないので100%研究にコミットできる。変な飲み会の誘いとかない)、施設・設備、クリエイティブ人材の豊富さなど、どれを取ってもアメリカポスドクの方が先をゆくためだ。




前提:アカデミアで、世界と勝負するための土台の部分


自分がアカデミア行くか就職するかで悩んでますって打ち明けたら、彼は土台があるかどうかという点についてお話してくれた。
確かに、そのフィールドに立てるだけの素質がないと挑めない。
幸いにも、自分は全部(最低限であっても)備えていたように思う。

どうやら勝負はできそうだ。

【最低限の資質】

・グラントが取れるか
・英語力あるか
・論文書けるか

・グラントが取れるか

 学振取れてない時点でお前は死んでるって言われる方もいるかもしれない。
 ただ、それ以外で民間のグラントとかは毎年1,2個を大学院生ながら採択されている。

 これらは採択率10-20%のものがほとんどだし、
 教授や准教授といったポストの方々と勝負しているものもある。
 
 基本的には書類には強いと思っている。

・英語力あるか

 ネイティブほどではないものの、研究室の公用語が英語なので平気。

 アジア人とかとコミュニケーションしているので、ネイティブ環境には
 やや劣るところとかあるかもしれないけれど、基本的にはクリアかと。

 個人的には少し読む部分で苦戦を強いられるというか、遅い部分がある。
 実験する上でのコミュニケーションとかは大丈夫と思う。


・論文書けるか

 これは書いたことないから正直わからないけれど、僕は書くことが得意だ。
 少なくとも日本語の単著論文を学部生で書けるくらいにはなっている。
 英語は、、わからないけれど、アレルギーはない。



1. Ideationのプロセスが自分で向いているのか?
2. それを形にすることができるのか?


2. やっていいと思えるか?


 これに尽きるっていえばそれまでだけれど本当にそう。
 別の言葉で言い換えると、、、

  自信が持てるのか?

 その先生も、ダメだったらやーめよっくらいの気持ちでいるそうだ。

 逆にいうと、「アカデミックな営み」それ自体が、
 それだけ楽観しながらでも続けられたり、
 自身の貴重な時間を投資してもいいと思う対象なのか?ということでもありそう。

 これには結構考えさせられることとがある。
 信じるってどういうことなんだろうか。
 
 情熱を持って何かに取り組むってことは、
 信じてそれに打ち込んでもいいという「覚悟」を決めることだなって思う。
 思わされた。


 この時自分は、成果には自信がないと先生に伝えた。
 これまでにろくな国際雑誌を書いてないんだと。
 
 そしたら先生は、

 IF(論文の点数)関係なく自信を持てるかだ。

 ってニュアンスを伝えてくれた。
 信じるってそういうことなんだろうな。
 
 もちろん、成果には妥協しないししたくないけど。



企業を選択すると?


アメリカだったら企業は全然おっけい。
「俺にはPIはいいかなぁ、向いてないかな」
ってなったら企業に行くっていう選択はかなり向こうでは普通らしい。


アメリカの中にある会社に勤めるのであればそれは何の問題もないことだということで、どうやら企業就職を選択したところで社会から脱落するということはなさそうだ。

ただ、、僕は日本人と結婚したいからなぁ。
この辺はちょっと考えるところがある。



将来設計において本質的に大事なこと


「そうはといえ、結構そういう自身の将来とかしょっちゅう考えているんでしょ?」
って言われた。

まさに、しょっちゅうではないけれど、
短期的に見たら最近はそのことばっかり考えてるのである意味図星だった。

そんな時の先生からもらった言葉はこうだった。

決めたことに対してそれが変わっていく、変えることが大事
 
他のアイデアに対してもリスペクトがある状態を作っておく


DeNAの南場さんとお話した時も似たような言葉をかけられた気がする。
その場その場で正しい選択肢なんてどれだけ悩んでも見つけられない。
そんなことより、自分が選んだ選択肢を後から正しくしていくということの方がよっぽど大事だと。


そしてそのためにはやはり、決めたところ以外の選択や、他の視野に常にリスペクトを払っておくということが重要なのだという。特にこと研究においてもまさにその通りだ。あらかじめ組んだ実験計画どおりに論文執筆が進むなんていうことはまずない。

だからこそ、そこから生じてくる様々な事象や現象に目を向けておいて、必要に応じて風が吹いてきそうな方向へと舵を切っていくこと。これが大事。
 

ポスドクいく際の、勝負ドメイン(分野)選択


概念を変える人と一緒に仕事をしていれば、領域を問わない。nature, cellとかをよく出す人たちと一緒に働く。


これが彼からの答えだ。
さっきの続きだけれど、
僕は、ほうっておいても自分はこうありたいってのを考える。

だから、環境としてそういうことを気にせず、
とにかく能力の高い人と一緒にやってきちんと刺激を受けて成果を出しているという状態が大事なのだろう。


本当に毎年のように最高峰雑誌に論文出している人はとってもクリエイティブなのだという。MITやカルテックなどにそういう人材はやはり多い。


じゃぁ, 実際ラボ選ぶ際にどう動く?


先生はポスドクっていうキャリアを経験してない特殊な方だけれど、一応どういう風に動いたらいいのか聞いてみた。

1. 人数が多いところは、細かいところまで指導とかはしていない。


 → 競争環境になる。
 → 小さ目のところでやる方がいいのでは?


2. すごいたくさん人にインタビューしまくるしかない。


 何十人のfaculty30minずつ面談するとか普通。
 適当に決めてしまわずにちゃんと見る。


3. あとは可能ならラボのpublicationとか噂とか


 この辺含めて、前回お会いしてきた理研の方と
 かなり共通している項目が多い。

 きっとこうやってやるんだなぁってのが見えてきました。



番外編:自分の腕を試したいなら


体力があってお金もあるところ


にいきなさい。とのこと。

そういう意味ではスタンフォードとか。

ただし、ウエスト / イースト コーストはお金ない人もたくさんいる. 
一番人が来るし人気だから、言語おぼつかない日本人はこまづかいとして思われる可能性 もある。だからかなり気をつけた方がいい。

その一方で先生のいるMidwestとかはチームでやろうとする。
すごくトレーニングを受けるという観点からは良いそうだ。

PIになってからの方がむしろ教育を受けているくらいだと。
周りの人がとてもサポートしてくれるそう。


ハーバードとかMITの話

RO1 or KA99が最初に取れてPIになる
 →activityが続かなくて死んでしまう人が多い。60%くらいがそうなって死んじゃう。




アイディエーション(発想)ついて



上の話にも関連するけれど、向こうでPIになれたからといって生き残れない人ってのはたくさんいる。だからこそ、研究者はアイデアで優れた真価を発揮せねばならない。

でも、実はつまらないアイデアであっても、ものすごいジャーナルに発信する人もたくさんいる。

こうした事実から、アカデミアでsueriveしていくためには二つ必要だ。


①型を覚える


お作法的に、これをこうしたらNatureがでます、みたいなお作法も一応あるにはある。例えば、タンパクの結晶構造とるとか。

「横展開型」の研究と僕が呼ぶものだ。
これはこれでめちゃくちゃ大事だし人知が確かに一つ増えるような研究なのだが、クリエイティビティにかける。

だって、そこには目新しいアイデアがないだから。

でもsurviveの観点からはこれはとても大事だ。
本当に自分がアイデアを出せないというスランプに落ち入ったらこれができないと、例えば自分の持っている学生のテーマをあげられなかったりもするし、なんなら成果が出なくなる。

だからこそ、一通り、どのくらいの解像度まで実験をこなしていたらnature級のものが出せるのか、といったことは勉強しておいて損はないだろう。トップクラスのラボで。



②アイディエーション:ゼロイチの発想を。


アイデア出すのが得意な人って、案外PIにしては珍しい。
現実の研究者を見ていると、型にはまった横展開的な研究をしている人がほとんど。

この人たちは、誰かが切り開いた分野にそのまま乗っかって派生的なプロジェクトを推進している人たち。この人たちの研究は、決まったプロセスで埋まってないところを埋めていくって感じのものが多い。


一方、今回お話した先生はそうではなく、アイデアタイプだ。
アイデア発想の際に持っておくべきマインドセットを伺った。


ゆるいアイデアと現象の交差点

「あんなことができるかもしれない、できたらいいな」レベルのゆるいアイデアと、それを実現へと導いてくれる可能性のある「現象」。
ただし、ゆるいアイデアとはとはいっても筋書きは細かく。ドラえもんレベルのあんなことできたらいいな、ではない。もう少し解像度は高い。


そしてこれらがクロスした時にアイデアが生まれるという。
逆にこの両者とものバランスが取れてないと、アイデアは生まれてこない。

特に現象という観点から言うと、Preliminary Data  が大切。
これは、そのゆるいアイデアを実現するためのきっかけとなるような「現象」が捉えられるようなデータのこと。アイデアを実行可能にするような現象を捉えよ、と言うことだ。

このプレリミナリーデータをいかに見つけてこれるかという力がとっても大事。



この辺、めっちゃ勉強になりました。


あとは、自分の役割をアイデア出しとディレクションに特化するってのも大事だ。


現在のラボがやばい→それはチャンス

 

今いるラボの選択を間違えたかもしれないと、つい愚痴っぽいことをこぼしてしまった。だけど先生からのアドバイスは迷いが一ミリもなく、「それはチャンスだね!」だった。

ピンチな時に救ってあげるのが一番だと。

おお。。さすがやな、一流の人はこの辺の捉え方が点で違う。

変化の兆しがある時に助けてあげられるとその人にラボのサポートは集中する。
だからこそ、これがスポットを浴びるチャンスなのだと。

いや間違いない。フルコミットしなくては!


その他tips


・ポスドク交渉は、1paid で持って行って、2年目から雇ってくださいってのがいい
 → これも前の理研の方がいってたのと全く同じだ、、。
   しっかり海外奨学金を調べておこう。


US3000万かける5年で若手に渡す。若手PIっぽい人に。
 →若手研究者に年間700万円を支援しようって言う政府系の新しいファンドがあるけれど、それについて。PI育成が目的なのだとしたら、これはあかんと。

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52895540T01C19A2MM8000/

 700万円って、ポスドク一人雇ったらそれで終わっちゃうから。。
 逆にポスドク行く人の生活費で投資しているとしたら、、?
 
 まあ、一種のチャレンジ支援としてはありなのだろうか。
 でも、30後半とか40歳の人がポスドクでチャレンジしに行く人って意味あるのか...?
 この辺の年齢とか結構ちゃんとシビアに見て決めた方がいい気がするなぁ。