2015年12月10日木曜日

オプシーボの研究開発成功秘話 〜小野薬品の社長、相良さんの話を聞いてきた〜

医療産業イノベーションフォーラム


東京大学のファーマコビジネスイノベーション教室(PBI教室)が主催している
医療産業イノベーションフォーラムに参加してきた。
http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~pbi/





私はこちらのフォーラムに昨年から参加するようにしているのだが、
東大以外の学生であっても、学生であれば無料で受講できる。
主に医療専門職の方や医療産業に関わる社会人が受講しに来ているが、
中には意識の高い学部生大学院生も受講しており、講演後の質疑応答はいつも活発だ。

その内容についてであるが、本当に多岐に渡っており、
医療とは全く関係ないような分野の一線で活躍している人の登壇も見受けられる。
以下、今年のフォーラムについてHP(http://www.miii.or.jp/news/index.html#forum)より抜粋する。
→今年の当フォーラムでは、世界の健康・医療市場を軸に社会が大きく変容する中、企業などの事業者が、変化する市場において、どのようなグローバル成長戦略を描いているか、一方、迎え入れる側の政府はどのような政策・戦略で事業者に魅力ある場を提供できるか?またグローバルな経済活動の中で日本の役割は何か?等を議論したい。



小野薬品といえばオプシーボ



さて、先日12/8(火)のフォーラムでは、小野薬品株式会社の代表取締役社長である
相良さんが直々に小野薬品のサクセスストーリーについて語ってくださった。
(ちなみに、当日のもう一人の登壇者は厚生労働省の森審議官で、
こちらの講演も非常に興味深いものであった。)

小野薬品といえば社員数3000に満たない、いわば中堅の製薬企業で、
新薬一本に絞った戦略をとっていることで有名だ。
(小野薬品のHPはこちら→https://www.ono.co.jp/

そんな中堅の製薬企業から
なぜ、オプシーボ(ニボルマブ)という画期的新薬が開発されたのか、
という話は誰もが気になる。

大手の製薬企業がみな画期的新薬が出ないと苦しんでいる中、
悪性黒色腫に対する抗PD-1抗体、いわゆる免疫チェックポイント阻害薬として
2014年7月にオプシーボが市場に出たニュースは
医薬品産業界では衝撃的であった。

オプシーボが市場に出て以来というもの、
小野薬品に対する注目は一気に高まり、株価もみるみる上昇、
時価総額も1兆円を超えた。これは日本の大手製薬企業並みだ。

成功の秘訣はどこにあったのか


社長のお話を聞いていて、やはりオプシーボも簡単に開発された薬ではない。
むしろ苦難の連続で辛酸を舐めるような日々が続いたという。

それでもどうして新薬を市場に出すまでに漕ぎつけたかというのはもちろん、
小野薬品の巧妙な創薬ストラテジーにもあると考えられる。

例えば、「化合物オリエント」という小野薬品独自の創薬手法がある。
これは、プロスタグランジン製剤(陣痛誘発、分娩促進剤)の開発時に
蓄積してきた小野薬品独自の脂質を中心とした化合物ライブラリーを用いて
疾患に標的を絞らずに化合物ベースで治療薬を探索していこうという手法である。

その他、京都大学、大阪大学をはじめとしたアカデミアとの共同研究を
活発に行おうとするいわゆる産学合同での創薬、
オープンイノベーションに対する取り組みも小野薬品に特徴的だ。

しかし、私が本当に小野薬品が成功に漕ぎつけた理由はもっと
本質的な部分にあるのではないかと社長の話を聞いていて感じた。

どうなるかよくわかんないけど、まぁやってみましょう


粛々と講演を進める社長であったが、実はその言動の根元たるや、
何か奥深いものを感じたところがある。

相良社長はものすごく自社の社風や雰囲気を重視するような性格に思えた。
以下、小野薬品の企業理念とミッションステートメントであるが、
これを相良社長は常々口にしていた。

《企業理念》
病気と苦痛に対する人間の闘いのために
《ミッションステートメント》
熱き挑戦者たちであれ


相良社長のお話を聞いているうちにこうした企業理念のうちに秘めたものというか、
彼らが本当に目指しているもの、情熱がものすごく伝わってきて、
新薬一本にこだわって研究を続ける研究者たちがめちゃめちゃかっこよく思えた。


講演後の質疑応答にて、
「若手人材の育成にあたって工夫されていることはありますか?」
という質問があった。

これにたいする社長の答えはこうだ。
「どうなるのかよくわからないけど、
まぁやってみましょうってところに感覚的に30%費やしてます。」

この言葉を聞いて、
あぁ、挑戦ってこういうことなんだって思ったし、
なんだかよくわからないもやもやしたところに実は物事の本質が
隠されていたりするんだろうなぁっていう、
電撃みたいなのが自分の中に走った。

小野薬品は研究開発日の売上高比率が30%と、
一般的な医薬品産業(こちらは約12%)と比べると
半端でない数字を研究開発に投資している。

きっと物事に対して惜しみなく投資していくこういう風潮や、
自由にまずはやってみるっていう空気感が、
オプシーボの開発成功には少なからず寄与しているのだと思う。


決めたことをやり抜く、ということ


そして、もうひとつ大事なのは、
「決めたことをやる抜く」という言葉にあったように感じる。
PD-1抗体がみつかったときも、
これがガンに関与しているとは全く検討もつかなかったが、
小野としては、「よし、ガンで行こう」と決めてそれで突き進み続けたという。

直感を信じて進んでいく力、
決めたことをやり抜く力、
これは間違いなく科学者にとって大事なんだなぁと
しみじみと感じたわけであります。