医療事故調査制度まとめ
MRIC(医療ガバナンス学会)さんはじめ、折に触れて医療事故について考えさせられることがある。にもかかわらず、記事をちょこちょこ読んでいるくらいで、あまりちゃんとまとめたり考えたことがない。
今回、昔僕がいた学生寮の同窓会で
医療事故調査制度のプロがOBとして講演されたそう。
その書き起こしを同窓会誌経由で読んだ。
これが案外ちゃんとまとまっていて読みやすかったので、
いくつか印象に残ったことを抜粋してここにとどめておこうと思う。
機会があったら医療事故についてはこのページにどんどん更新していってもいいかもしれないなぁなんて思ったり。
目次
- 医療の不確実性
- 医療事故に遭った患者さん、あるいは家族の望みは次の四つに集約される
- 医療事故調査制度までの道のり(歴史)
- 医療事故調査制度の目的と基本的な考え方
- 医療事故調査制度の概略
- 医療事故調査制度の現状と課題
◆医療の不確実性
残念ながら、「医療は安全か?」という問いかけへの答えは「否」。
・医療事故の発生原因は3つに分類できる。
- 避けることができない合併症
- 著しく低い水準の医療
- 医療過誤(医療ミス)
しかしながら、患者さんはこの三つを区別することができないことが多い。
◆医療事故に遭った患者さん、あるいは家族の望みは次の四つに集約される
- 何が起きたのか知りたい
- 同じ事故が別の人に起きてほしくない
- もし医療者が悪いのであれば処罰して欲しい
- 大黒柱を失った家族を救済してほしい
◆医療事故調査制度までの道のり(歴史)
・医療事故が起きた時に十分に調査し、真実を明らかにして、再発防止を検討する制度が求められてくるよになる。その経緯が下記。
ー1999年:医療安全元年(医療事故がこの年に多発)
- 横浜市立大学:患者さんの取り違え手術
- 都立広尾病院:消毒薬を誤注射して患者さんが亡くなる
ー広尾病院での問題点:医師法二十一条
「医師は、死体または妊娠四ヶ月以上の死産児を検案して異常があると認めた時は、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」
→異常死体を検案した時は犯罪かどうかを調べる必要がある。ということ。
この法の解釈として、医療行為に関連した予期しない死亡は、医療行為の過誤や過失の有無を問わずに全て警察に届けるべきであるとのガイドラインを「法医学会」が出していた。
ところが、手術では、「避けることができない合併症」でなくなる場合もある。こういう事例もすべて警察に届けてるのは明らかにおかしいとして、「日本外科学会」が声明。これに続いて、医学界全体、つなわち日本医学会基本領域十九学会が共同声明をだす。
→ こうした声明が出てきた結果、
「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」がスタート (2005)
ー2005年:大野病院事件
モデル事業がスタートしてからたったの五カ月のこと。
福島県立大大野病院で、帝王切開を受けた女性が癒着胎盤が原因の大量出血で亡くなられた。
→ 担当の産科医が逮捕されたという点で、医者の間では衝撃が走る。
(最終的には無罪判決になるが。)
ここにきてようやく、モデル事業とは全く別で、厚労省が動き出した。
医療安全庁という政府機関を作って、ここに届ければ医師法二十一条に則った警察への届け出をしなくてもいいようにしようと。そして場合によっては(カルテの改ざん、悪質な場合など)医療安全庁から警察に届け出ようと。
ところが、この制度には大きく反対意見が出されることに。
(一例)
さらに、民主党への政権交代などでのごたごたも相まって、
上記大網案は放置されてしまい、結局はモデル事業が存続されることになる。
福島県立大大野病院で、帝王切開を受けた女性が癒着胎盤が原因の大量出血で亡くなられた。
→ 担当の産科医が逮捕されたという点で、医者の間では衝撃が走る。
(最終的には無罪判決になるが。)
ここにきてようやく、モデル事業とは全く別で、厚労省が動き出した。
医療安全庁という政府機関を作って、ここに届ければ医師法二十一条に則った警察への届け出をしなくてもいいようにしようと。そして場合によっては(カルテの改ざん、悪質な場合など)医療安全庁から警察に届け出ようと。
ところが、この制度には大きく反対意見が出されることに。
(一例)
-どのような例を届け出たらいいのか -知らないうちに警察に操作される事態になってしまうのか -具体的にどのような行政処分がくだされるのか
さらに、民主党への政権交代などでのごたごたも相まって、
上記大網案は放置されてしまい、結局はモデル事業が存続されることになる。
ー2014年:医療事故調査制度の幕開け
再びまた議論の蓋が開けられて再検討されることとなり、結果的には、
医師法の改法として医療事故調査制度が法制化され、
2015年10月から実施されることとなった。
◆医療事故調査制度の目的と基本的な考え方
【目的】
医療事故の原因究明及び再発防止を図り、これにより医療の安全と質の向上を図ること。→ 医療安全の確保があくまでも目的であり、個人の責任を追及するためのものではないという点に留意(法律にも書かれている)。
【法令における医療事故の定義】
「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる志望又は死産で、当該管理者が予期しなかったもの」
【基本的な考え方】
・大網案と大きく異なる点は、これが政府機関の中央で事故調査をするという内容であったのに対し、新制度では、事故が起きた現場の病院で外部委員のサポート下で事故調査を進める点。
→医療事故と判断して事故調査のスイッチを入れるのは医療者。
いくら遺族が事故だから調査をしてほしいと希望しても、病院側が
スイッチを押さなければ調査は始まらない。
したがって、これは医療界のProfessional Autonomy (自律)と
Self-Regulation(自浄作用)が前面に押し出されている制度といえる。
我々の姿勢が問われているということだ。
・検証の結果「回避できない合併症」だと明らかになると、
関与した医療従事者は救われる。
関与した医療従事者は救われる。
・「過誤」が明らかになると罰せられるかというと、そうではない。
個人の責任を追及しないというのがこの制度の原則。
というのも、個人を罰しても再発防止につならないことがあいらかになっているから。
・あなたを責めるのではない、一緒にシステムの問題点を考えましょうというスタンス。「人間は間違うもの:to error is human」という前提に立って、エラーの発生を防止し、起きたとしても影響が最小限になるシステムを構築しようとする。
(再発防止のために脆弱なシステムを明らかにする。)
◆医療事故調査制度の概略
【流れ】
・死亡事例が発生すると、医療事故かどうかをまず判断。
決定は院長(施設長)が行う。
・事故と判定した場合、ご遺族に事故調査をする旨と、医療過誤とは限らないことなどを説明。
・支援センターに届け出
・院内調査
・結果をご遺族に説明し、センターに報告書提出
ー診療所も含めたすべての医療機関が対象となる
ー2019までの4年間で9件の再発防止に向けた提言が出された
【医療行為の分析】
■標準的医療:
医療行為分析の際に比較基準とする医療。
医療者の常識として行われていることで、ガイドラインに記載されている場合もある。
※特定の機関でしかできないことではない。※通常、標準的医療には複数の選択肢がある。
■事前的視点、事後的視点
事後的視点:結果を知ったうえで医療行為を分析判断する
事前的視点:結果を知らずにその時点でどう判断するか
☆標準的医療と比較して、行った医療が適切であったのかどうかという判断は事前的視点から行う。
☆再発防止策は事後的視点で検討する
◆医療事故調査制度の現状と課題
◎600床以上の医療機関で、44%がこれまで一度も医療事故を報告したことがない。
※毎月30件ほど、医療事故報告が支援センターに届けられているのが現状。
→ 医療事故が発生しても報告していないっていうケースが結構ありそう。
◎報告することで訴訟がふえるのではないか?という危惧
これが結局報告をためらう病院が出てきている理由なのだろう。
参考:産科無過失保障制度
ー脳性麻痺のお子さんが生まれた場合、分娩時処置の過失の有無にかかわらず、患者さんを最優先に考えて、一時金として600万円、その後20回にわたって年間120万円、合計3,000万円を保障するという制度。
-医療事故はあらゆる医療行為が対象であるため、無過失補償制度を導入するのは難しいと言われている。(報告が増えてるという点では導入は望ましいこと)
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【その他メモ書き】
■防衛医療(ぼうえいいりょう、Defensive Medicine);
主に医療過誤の賠償責任や刑事責任追及等にさらされる危険を減ずるための、医療者側の対応として行う医療行為、あるいはリスクの高い患者の診療の忌避を意味する。
※某学生寮 同窓会誌から情報を得ています。
調べたら出てくることがほとんどだと思い、転載もしております。
問題がある場合はご連絡いただければと存じます。
関連書籍
『医療におけるヒューマンエラー 第2版: なぜ間違える どう防ぐ 』『どうなる!どうする?医療事故調査制度 』