2016年6月15日水曜日

大塚製薬と日本IBMが合弁会社設立: Watsonを使ったデジタルヘルス・ソリューション MENTAT(メンタット)の開発へ

中枢神経領域におけるデジタルヘルス・ソリューション


先日6月13日付けで、大塚製薬株式会社と日本アイ・ビー・エム株式会社より、
合弁会社設立のニュースリリースが公開された。
(ニュースリリースはこちら → http://www.otsuka.co.jp/company/release/detail.php?id=3117
 

社名は「大塚デジタルヘルス株式会社」
完全に大塚の医薬品事業からは独立させるとのこと。
資本金は2億6700万円、
持ち株比率は大塚85%、IBM15%だ。


大塚製薬の得意とする中枢神経領域での知見とIBMのWatsonを組み合わせて、この分野に置ける新たなデジタルヘルス・ソリューションを提供するのが狙いだ。


「MENTAT(メンタット)」の開発 、販売へ


大塚デジタルヘルスの具体的な事業内容は、
「MENTAT(メンタット)」とよばれるデータ分析ソリューションの開発だ。

プレスリリースによると、
「MENTAT」は、数値化しにくい症状や病歴などの記述を自動的に統合・分析してデータベース化することで、医療従事者が患者さんの医療データを有効に活用し、より良い医療を提供できるよう支援 してくれるツールだそうだ。


 IBMの有する「IBMWatson」を活用することで膨大となるテキストデータを
言語解析し、データベース化することによって医療従事者が参照したい症例を
絞り込み抽出できるようにする。

そして、抽出してきたエビデンス情報を共有したり、
治療に反映したりすることで治療効果の向上へとつなげる狙いだ。


大塚の精神領域 × IBMのWatson


なるほど、、
たしかに精神科領域と言えば医療業界のなかでもかなり
とっつきにくい分野のひとつで、定量化できる症状や検査値がほとんどない
というような現状である。

このため、診断時に患者さんの症状は電子カルテに自由記述される。

自由記述されたカルテの言語を自動的に解析してくれるような
デジタルソリューションの提供という意味ではとても画期的だと筆者は考える。

これまで解析できていなかった漠然とした精神科の症状というものが、
言語解析によるデータベース化よって定量化される
というところまで可能であるならばその汎用性は十分にある。


 エビリファイを代表とする大塚の強みでもある精神疾患領域に
IBMWatson を導入するというアイデア自体はなかなかおもしろいし、
たしかにこれは彼らだからこそできることである。

考察


というとレポートみたいだが、MENTAT の今後について考えてみたい。

大きく分けてMENTATがマーケットに普及するために2つのステップが必要だ。

1.開発
2.販売

まず、開発時の障壁について考えてみたい。

1.開発


まず、データベース化の問題である。
これには、下記3点の懸念がある。

・時間 →既存の電子カルテから、エビデンスと言うのに十分な
     データベース構築を、IBMWatson がどのくらいの速さで成し遂げるか。

     Watsonに出きることも知らない小生なので何とも言えないが、
     今の技術を持ってすればわりと一瞬でできてしまうのだろうか。
     
     というかそもそも、こういう新しいこと始めるのにあたって
     協力的な病院や医師はどのくらいいるのだろうか。。
     カルテの個人情報を誤って漏洩してしまったり、ということは
     絶対にあってはならないが、
     これを過度に心配する傾向にある病院も多い気がする。

     データが入手できなくて開発が律速にならなければいいのだが。。

・正確性→こちらの方が大きな問題を孕んでいるだろう。
     
     さきほどのような理由から、入手できる電子カルテは
     特定の病院に限られてしまうであろう。
     病院によって来院する患者の属性も症状も違うだろから、
     こういうことが起こるとデータにはある程度偏りが生じる。

     それでも一般化可能なくらい十分な正確性をもったデータベースを
     構築できるのかどうかという問題点だ。

  
 ・主観性 →自由記述ならではの問題点がこの主観性の問題だ。

     当然、医師によって例えば「この人は落ち込んでいる」ということを
     カルテに記入する際の基準は異なる。
     また、患者は医師に告げるときの症状も主観的である。

     カルテにデータ記入されるまでには、
     患者→医師→カルテ
     というステップを踏むが、このステップには患者、及び医師という
     2段階の場面において主観性が入り込まざるを得ない。

     IBMWatsonはここをどう攻略してデータベースを立ち上げるか。
     個人的には一番注目している。
     

2.販売


さて、データベースが構築されたところで、これって本当に売れるのだろうか。

おそらく最大の顧客は 病院 である。
でも、そもそも病院はお金持っていない。

電子カルテにMENTATシステムを内蔵して販売するとか
そういうイメージだと売れるかもしれない…
でも、ソフトウェアで販売しにくるような雰囲気をだしているよな。。

せっかくデータベースができたとしても病院に買ってもらえなかったり、
あるいは多忙な医師がそれを活用しない何てことも考えられる。
マーケティング戦略や医師が即戦力としてつかえるような
インターフェイスの備えたソフトウェアとしての開発が肝要である。



 あるいは、臨床上での利用でなくとも、
製薬会社のデータベース活用なんかも考えられる。
すなわち 製薬会社 が顧客となる販路である。
(というか個人的にはこっちで使ってみたいと思ったのだが...)

 精神領域の症状に関する言語が定量化できるようになれば
 疾患の新たなメカニズムの特定や、
それに基づいた新規医薬品開発なんかも可能になるかもしれない。


いずれにせよ、
どういった根拠でビジネスが成り立つと判断されたのかが気になるところだ。

まとめ 


つらつらと書いてきたけど、個人的にはこのニュースリリースに注目している。

大塚製薬ってデジタルメディシンとかもやってて

かなりITとかに力を入れているイメージ。

どんどんこうした新しいテクノロジーを取り入れるような挑戦の文化はとってもいい。



ということでまた今度、
デジタルメディシンについて取り上げてみたい。